【将棋天国バックナンバー】<特別企画>大山康晴十五世名人に聞く ──まぼろしの大野・大山十番将棋 Part1【季刊夏 将棋天国VOL.14より】


◆季刊夏 将棋天国VOL.14 <特別企画>大山康晴十五世名人に聞く ──まぼろしの大野・大山十番将棋 Part1

※この記事は将棋天国社から許可を頂いて転載しています。

 


こちらに今回掲載した「まぼろしの大野・大山十番将棋 角落ち戦」の棋譜を初手から30枚以上の盤面図を使って最終手まで並べた記事があります。 本記事は図が少なくて盤面が追いにくいので、まずはこちらでこの一局について理解してから、本記事の大山先生の解説を読むのがオススメです。

◎関連記事 ⇒ 【名局スクリーン】まぼろしの大野・大山十番将棋 角落ち戦 1940年9月8日木見会での一局 を並べる【大山の受け】


 

 


『季刊夏 将棋天国VOL.14』昭和57年7月10日発行 P30「<特別企画>大山康晴十五世名人に聞く ──まぼろしの大野・大山十番将棋」より

 

聞く人 宮崎忠雄 五段(津軽支部長)、坂本一裕 四段(将棋評論家)、中戸俊洋 四段(本誌)

 

中戸 大山名人には超ご多忙のところ、特に時間をさいていただいて有難うございます。 大野先生との十番将棋はどんないきさつで対局されたものでしょうか。 まずその辺から・・・・・・。

 

大山 大野さんは木見金治郎先生の最高弟で、私が入門した昭和十三年三月にはすでに五段でした。 昭和十年十一月、大阪に新しく新進棋士奨励会が誕生し、それと同時に木見会が出来て木見教室として多くのファンの人が集まり、毎月一回将棋を指したり語り合ったりしたものです。 木見先生が目を細めてタバコを吸っている姿は今もハッキリ思い出します。 その木見会の席上手合いで大野・大山の十番将棋を指させたら、と言う事になり、実現したものです。

 

宮崎 どこかの新聞に発表されたものですか?

 

大山 新聞棋戦ではなく、木見会の会員さんに見て頂くためのものでしたから発表されなかったと思います。 ただ、昭和十七年五月号の『将棋世界』と昭和二十九年十月号の『近代将棋』に香落ちの一局を私が書いたことがあります。

 

坂本 私が子供の頃に『将棋世界』の香落ち戦を見ましたが、そのさばきの鮮やかさに感激、興奮し、将棋とはこんなに面白いものかと、熱中したきっかけになったことは忘れられません。

 

中戸 手合いはなんだったんですか。

 

大山 私が二段の時、最初は角落ちでしたが、私が昇段して四段になった頃に香落ちで十番将棋として始まり、最後は平手もありました。

 

坂本 私は大野、大山両先生のこの十番将棋の棋譜を何十年も探し続けて来ましたが、どうしても手に入らず、あきらめていました。 今回名人のご好意で、角落ち、香落ちを各一局拝見することが出来、全く夢のようです。

 

宮崎 とにかくビッグニュースで、本誌としても大特ダネであるし、これは全国的にも大反響を呼ぶでしょうね。

 

中戸 本誌にも予告を出しましたが、一日も早く見たいと投書が殺到しています。 まさにまぼろしの名棋譜で、私も興奮しています。

 

大山 皆さんに喜んでもらえれば私もうれしいです。 ファンあってのプロ棋界ですからね。

 

宮崎 このような大特ダネを発表できたのは名人のおかげですが、そのきっかけをつくったのは坂本さんの熱意でしたね。

 

中戸 それでは棋譜の読み上げを坂本さんにお願いし、私と宮崎さんが先生に質問すると言う形式にします。 よろしくお願いします。

 

 

 

 

昭和十五年九月八日
木見会 (第二十四回・大阪市北区老松町三丁目三十一の木見金次郎先生宅にて)

角落ち

△七段 大野 源一
▲四段 大山 康晴

△8四歩 ▲7六歩 △6二銀 ▲7八銀 △6四歩 ▲6六歩
△5四歩 ▲5六歩 △9四歩 ▲6七銀 △8五歩 ▲7七角
△7二金 ▲7五歩 △5二金 ▲7六銀 △6三金左 ▲6八飛
△5三銀 ▲4八玉 △4四歩 ▲3八玉 △5二玉 ▲5八金左
△3二銀 ▲4六歩 △3四歩 ▲2八玉 △4三銀 ▲3八銀
△3三桂 ▲3六歩 △8三金 ▲6五歩 △同 歩 ▲同 銀
△6四歩 ▲7六銀 △4二玉 ▲4七金まで第一図。

 

中戸 プロ同士の角落ち戦はやはり少ないと思うんですが、『将棋賛歌』でA級棋士と三段クラスの角落ちを連載し今までのところ、上手が勝ち越しているのが話題になっていますが・・・・・・。

 

大山 その対局にくらべて上手の段が低く、下手の段が高いのですから、私としては負けられません。 でも、私が二段の時、六段の升田さんと角落ちで顔が合い、一手負けになったのをトン死で拾ったことがあるので、あまり大きなことは言えませんがね。

 

宮崎 角落ちの下手としては矢倉居飛車が本格的とされているようですが、本局では6七銀と振り飛車ですね。

 

大山 居飛車、振り飛車は一長一短ですが、昔は七間飛車を本定跡と称していました。 下手としては、どちらでも指せると言うのが私の見解です。

 

中戸 上手が7二金と7筋の位を許したのはどんなものでしょうか。

 

大山 これは大野さんの趣向で、一旦位を取らせてから反撃する作戦です。

 

坂本 下手の六間飛車は珍しいですね。

 

大山 この形では当然です。 6筋の歩を切って飛、角の道が通ったので、指せると思いました。

 

宮崎 大野先生の低姿勢、大山先生の高姿勢といったところですね。

 

 

 

   (第一図以下の指手)
△7四歩 ▲同 歩 △同金右 ▲7五歩 △8四金 ▲3七桂
△7二飛 ▲6六角△7四歩 ▲7八飛 △6五歩 ▲4八角
△7五歩 ▲同 銀 △同 金 ▲同 飛 △7四銀 ▲7八飛
△7五歩 ▲2六歩 △1四歩 ▲1六歩 △8二飛 ▲7七金
△6四金 ▲2七銀 △5五歩 ▲5八飛 △5四銀直 ▲5五歩
△同 銀 ▲3八金 △5四金 ▲5六歩 △6四銀 ▲2五歩
△5二玉 ▲2四歩 △同 歩 ▲2二歩までで第二図。

 

中戸 大野先生が7四歩と、いよいよやって来ました。 7筋は大丈夫ですか。

 

大山 7筋の兵力は、上手が飛金二枚で合計三枚、下手も飛角銀と三枚なので悪くなる筈はないと思っていました。

 

宮崎 結局、金銀の交換になりましたが、この取り引きはどちらが得ですか。

 

大山 7筋の位は取られましたが、銀を打たせてしまったので、指し易いとみていました。

 

中戸 上手の8二飛に7七金と言うのは大山流ですね。 ここで8八飛とはいけませんか。

 

大山 それだと7六歩から6四銀、7五銀があって面倒です。

 

宮崎 先生の3八金で6七歩はありませか。 次の5六歩で銀が死ぬんですから。

 

大山 6七歩の時、5四金でうまくゆきません。

 

坂本 大野先生の5二玉は5三玉ではないでしょうか。

 

大山 下手からの2筋の攻めを誘った意味もあり、むずかしいところです。

 

中戸 敵陣にポトリとたらした下手の2二歩が一局の運命を左右しそうですね。

 

 

 

 

   (第二図以下の指手)
△6三玉 ▲2一歩成 △1三香 ▲2三歩 △8六歩 ▲同 歩
△6六歩 ▲2二歩成 △2五桂 ▲2三と △5七歩 ▲同 金
△3七桂成 ▲同 玉 △6五桂 ▲6六金右 △7七桂成 ▲同 桂
△6五歩 ▲6七金 △8六飛 ▲5五桂 △同 銀 ▲同 歩
△2五桂 ▲2八玉 △8九飛成 ▲2九桂 △6四金 ▲2四と
△7六歩 ▲2五と △7七歩成 ▲同 金 △6六桂 ▲5七飛
△5八金 ▲4七飛 △4八金 ▲同 飛まで第三図。

 

宮崎 一枚のと金をタネに二枚目のと金をねらう2三歩は手筋ですね。

 

大山 あまりスピードはありませんが、私の玉が堅いので何とか間に合うと思っていました。 しかし上手の8六歩から6六歩が大野さんらしい巧いさばきで、まだまだ大変です。

 

坂本 上手に6五桂と打たれて、むずかしいようですが。

 

大山 大野さんに歩のないのがたよりです。

 

中戸 下手も5五桂と待望の反撃。

 

宮崎 大野先生の金取りにかまわない8九飛成の詰めよはすごい迫力ですね。

 

大山 2九桂で受かるので大丈夫です。 それに右翼一帯は私の勢力圏になったので、入玉含みもあり、負けはないと思います。

 

中戸 上手は手ゴマ不足なので攻め切れないと思いますが、6六桂、5八金とさすが大野先生だけあって、すごい食いつきですね。

 

宮崎 大山先生の玉が安定している分、有利なのでしょうね。

 

 

 

 

   (第三図以下の指手)

△5六歩 ▲6七金 △9九竜 ▲7六桂 △6九竜 ▲6八金
△8九竜 ▲6四桂 △同 玉 ▲6七歩 △7六桂 ▲6六歩
△6八桂成 ▲7六桂 △7五玉 ▲7七金 △8六金 ▲6四銀
△8五玉 ▲8七歩 △7六金 ▲9六金 △8四玉 ▲7六金
△9三玉 ▲8五金左 △同 銀 ▲同 金 △8二香 ▲7四金
△9二角 ▲7五金打 △7二桂 ▲7三銀打 △6四桂 ▲8四金上
△同 香 ▲同 金(投了図)まで、百五十八手で下手の勝ち。

 

坂本 上手の5六歩に対して、6七金。 こんなところは受けるものですか。

 

大山 わざわざ、と金を許すこともありません。 難しくして勝つより、分かり易く勝った方がいいですから。

 

宮崎 手順に上手の玉を追って8七歩とは、うまいものですね。 8七同金なら、9六金ですか。

大山 単に8六金では同玉で入玉もようになります。

 

中戸 下手の8七歩が上手の竜の利きを消したので寄せがスムーズにゆきましたね。

 

宮崎 大野先生のがんばりはすごいものですが、逆転はありませんか。

 

大山 いま並べ返してみても案外堅実に寄せています。

 

坂本 大野先生とは角落ちで何局ぐらい指しておられますか。

 

大山 正確な数は分かりませんが、大分やっています。 二段の時に角落ちで勝った棋譜を『将棋世界』の昭和五十一年七月号に発表したことがあります。

 

次の香落ち戦の一局は、次回の記事に続きます。

 

 


木見宅でのみ開催された「大野・大山十番将棋」は、今で言う「藤井聡太四段 炎の七番勝負」のようなもの。
当時27歳の大野源一七段と、17歳の大山康晴四段の二人が十番将棋を指していき、どちらが勝ち越すかの勝負だった。

そして42年後、この一局を59歳になった大山先生が解説するという記事。
将棋マニアにとってはかなり貴重で、知る人ぞ知る正しくまぼろしの将棋だったようです。

 

上手の大野先生は△4三玉と囲う銀象眼定跡(銀象眼定跡図)に組むのかと思っていましたが、7筋の位を取らせて△4三銀から中住まい棒金にしたのが個人的に面白いと思った所。

【銀象眼定跡図】
角落ち上手主流の構え。

大野先生は下手の7筋を狙って動く将棋にしようとしたのでしょうが、大山先生は左辺を軽く捌いて一見重たそうな▲7七金(実戦金打ち図)で局面を落ち着かせ、銀冠に組む受けの指し回しが手厚く、気がつくと大山先生が大野先生の攻めを受け切る将棋にしていたのが凄みを感じました。

【実戦金打ち図は▲7七金まで】
▲7五角から一気に捌くのかと思いきや…。

角落ち下手でも「大山の受け」が発揮されている事、入玉模様にも動じず手堅く押し返す早い寄せが、私のような素人目にもわかる素晴らしさ。
大野先生の桂を使った攻めも激しいと思っていたのですが、それをいなした大山先生の才気を感じさせる序盤中盤終盤隙の無い将棋でした。

次回の香落ちがどんな将棋なのか、次回が楽しみです。

 

 



◆今回の記事の棋譜&棋譜再生

 

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こちらに今回掲載した「まぼろしの大野・大山十番将棋 角落ち戦」の棋譜を初手から30枚以上の盤面図を使って最終手まで並べた記事があります。 本記事は図が少なくて盤面が追いにくいので、下記の図をふんだんに使った記事で、この一局をゆっくり鑑賞しましょう。

◎関連記事 ⇒ 【名局スクリーン】まぼろしの大野・大山十番将棋 角落ち戦 1940年9月8日木見会での一局 を並べる【大山の受け】


 

 


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